青春へのサーチライト沖野です。
それでは今日も元気にいってみよう。
今回の本と評価
「こころ」
著者‥夏目漱石
出版社‥新潮社
面白度 ☆☆☆☆☆
読みやすさ ☆☆☆☆
テーマの深さ ☆☆☆☆
こんな気分のときに読みたい:人間関係を覗いてストレスを発散したいとき
「こころ」はどんな本なのか
まずはあらすじ抜粋しよう。(Amazonより引用)
あなたはそのたった一人になれますか。
親友を裏切って恋人を得た。しかし、親友は自殺した。増殖する罪悪感、そして焦燥……。知識人の孤独な内面を抉る近代文学を代表する名作。
鎌倉の海岸で、学生だった私は一人の男性と出会った。不思議な魅力を持つその人は、“先生"と呼んで慕う私になかなか心を開いてくれず、謎のような言葉で惑わせる。やがてある日、私のもとに分厚い手紙が届いたとき、先生はもはやこの世の人ではなかった。遺された手紙から明らかになる先生の人生の悲劇――それは親友とともに一人の女性に恋をしたときから始まったのだった。
結論から言う。この本は面白い。
厚みのある文学ながら先が気になってするする読める。
文芸ちっくな重みと面白さが両立されているのがすごいレアだと思う。読み口が軽いので読みやすい。
この本の読みどころは主にリアルな会話文の描写だ。
日常に交わされる会話が、そのまま紙に乗っているところがすごい。
普段人と話すときのやりとりの面倒さや忖度、話の切り上げの常套句がもれなく見受けられる。
登場するのは皆厄介な繊細さを持つ人ばかりでまた興味深い。
今回はそこに焦点を当ててみる。
非常な感受性の強さ
アオハル。平成によく聞いたキラキラしたワードだと思う。
このブログの読者はそれぞれ中高時代を経て成人していると思われるが、みな中高時代いろいろあった。あったよね?
友達の内面を推し量り、ちょっと外れた行動をしたり踏み込みすぎたり。
またその結果落ち込み、自分を責めてみたり。
今と比較して、あまりに繊細な心を持て余していた。持て余していた、とあえて表現する。
というのも日常生活でそんなことをいちいち気にしていると厄介で、あまりにも疲れるからである。
様々な失敗を経て結局中庸に落ち着き、このくらいまでは波風立てないで気持ちをもとう、というのが決まってくる。
「こころ」は主人公をのぞき大半いい年した大人なのであるが、私の中高時代みたいに感受性が強い。
客観視すると心配になった。いいの?大丈夫なの?社会でやってけてるの?
しかし当然簡単な話で、社会でうまくやっていけてない。主人公の学生が観察し、描写する先生という人物はなんにも仕事していないし、財産で食ってる、俺は世間とは関わらない、みたいな人だ。
主人公も主人公で先生の心に踏み込んで駆け引きをしてみたり、先生は先生で、話の最後あたりになるが自殺してみたり。
いんだけどね………もうちょっとメンタル強くもってもいいんじゃないかな。人のこと言えないけど。
こころ、というタイトルが何から決められているのか分からないが、一応本文をみると2回、心という単語が出てくる。
新潮文庫でいうと54ページと75ページだったかな…たぶんだけど。
54ページが特に印象的で、
うろ覚えだけど
奥さんは論理的な話というよりは、心の底にじっと沈むものを大切にしているようだった。
みたいな描写があって、そこが個人的に象徴的だと感じる。
ほとんどにおいて自我の強いめんどくさい大人しか出てこないが、波風立てずにうまくやるにはここはスルーだよね、みたいなところをぐいぐい押して行ってしまう人、そしてそれを受け入れ自分も踏み込んでいってしまう人、彼らを見ていると、夏目漱石は感受性が強いのだなと思う。
勝手なイメージだが大学教授をしていて一端に文芸で食べていてそれなりな社交もあるだろう人が、あまりの繊細さ、社会に押し潰される繊細をよく観察しているし書いている。ということが驚きだった。
エッセイ「文鳥」を読んでも、どろどろした感じの人ではなくて、大分ドライに思えるのだが、実は違うの?文豪ってみんなよくわからない共依存と支配感で交際してるの?
なんにせよ厄介なセンチメンタル男しか出てこない。
センチメンタル男がセンチメンタル男を観察し、過去編でセンチメンタル男が超弩級のセンチメンタル地雷男に迷惑を被って死んでしまうみたいな話である。
しかし謎が解かれていく感じ、先を進んで過去を解明したい、秘密を知りたいと急かされる感じといい探偵小説のように読むのがいいんじゃないだろうか。その点において面白い。
前にも述べたが非常に読みやすく、先を気になって気が逸る本である。おすすめー。